2016年4月7日木曜日

断腸亭日乗(全7巻)

永井荷風の日記である「断腸亭日乗」を再読したくなって、全巻買うことにした。
文語体ではあるが、荷風の意地悪ぶりを寝る前に読み、ひとり、にやにやするのがこのところの至福のひとときである。

大正十年四月九日。

市兵衛町表通宮内省御用邸塀外に老桜数株あり。昨日あたりより花満開となれり。近鄰の児童羣れ集りて、或は石を投げ、或は竹竿にて枝を折り取らむとす。日本の子供は犬を見れば撲ち、花を見れば折らざれば已まず。獰悪山猿の如し。




2016年3月7日月曜日

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 村上春樹著(新潮文庫)

弊社代表、多忙につき、ここ3週間、まともに読書できていないとのこと。
あんなに本好きなのに…。かわいそうに…。

となれば、わたしがブログを更新しましょ。
本日は村上春樹の小説を。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。上・下巻です。

村上春樹の小説を読みなれている方であれば、早い段階で「感覚」をつかめるはず。
しかし、そうでない方にとっては「・・・へ?」という感想しかもてないはず。
高校生のとき、本書のページをめくった私のように。

大学の講義中、教壇に立つ教授が、「日本の村上春樹という小説家は、人のこころの仕組みをよくわかっている」と話していました。
白人の口から「はる~き、むらか~み~」と、日本人の名前を聞けてなんか嬉しかったので、ダウンタウンのブックオフ(あるんです!カナダにも!)で、古本のくせに日本の新本の3倍の値段の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を購入。
高校生のときには「・・・へ?」という小説でしたが、さて。

人の記憶や認知をベースに話が進んでいきます。
そして、記憶や認知こそが「ひと」そのものなのだ、ということをファンタジーで表現しています。
心理学をお勉強したことのある方であれば、認知心理学の基礎理論を組み合わせただけの茶番じゃん!と批判的に捉える方が多いはず。
たしかにそうかもしれませんが、でも、どんなに深く心理学を学んでいる方でも(そんな方だからこそ)、基礎理論をここまではっちゃけたものにはできないはず。

最近、本書をもう一度読み直してみました。
やはり、はっちゃけてます。あそんでる。だから、クセになる。

実は、村上春樹の、ふわふわ&背筋がむずがゆくなる言葉は、まったく得意ではないわたし。
でも、彼の小説の「形」が好きです。
ひと特有の複雑さを描こうとする、その形。
単に感情の面だけではなく、構造的な面での複雑さ。グッド。

好き嫌いがはっきりと分かれる作家ですよね・・・。
でも、食わず嫌いはよくありません。
嫌いになるにしても、一度は読んでほしい作家です。
・・・とすすめて、私の知り合いは大っ嫌いになりましたが・・・。

2016年2月19日金曜日

bar@ginowan,okinawa

宜野湾市にあるとあるバー。
読み終えた本をカウンターに置いていったらいつのまにこんなことに。類は友。読書家の集うところ。

2016年1月24日日曜日

『沖縄戦後史』 櫻澤誠著(中公新書)

358頁。新書にしては厚い。
1945年の沖縄戦終結から2015年までを扱う。

「沖縄問題」はとかく先入観をもたれがちである。
近年でも、沖縄経済は基地に依存している、あるいは、結局沖縄は
「補償金」をつりあげようとしているだけだ、という主張がある。さらには
「オール沖縄」は全基地撤去を要求している、中国に近づいている、といった
ものまである。」
「本書で明らかにしたように、こうした先入観はすべて誤りである。たとえば、
保守勢力は一定程度の基地は容認しつつも基地経済の弊害を懸念し、
50年代以降、一貫して自立経済の樹立を主張してきた。先入観がなくなれば
すぐに答えが見つかるわけではない。けれども複雑に絡み合った糸を解きほぐす
ことで、ひとまず解決の糸口を見つけやすくなるだろう」(あとがき より)

1978年生まれの若手研究者による著作。
「思い入れ」過剰な視点から語られがちな領域であるため、本書のような
冷静な視点からの歴史叙述はきわめて有益だ。

2016年1月7日木曜日

『小泉今日子書評集』 小泉今日子著(中央公論新社)

タイトル通り、小泉今日子の書評集です。
10年間新聞に掲載してきた書評を各年ごとにまとめたもの。

わたしは、小泉今日子が大好き。あのサイズ、顔、声が好き。
老けたと言われていますが(そして、確かに老けちゃいましたが)、その老け具合、老け方がまたよい。
ということで、本書を手に取ってみました。
紹介されている本は、どれも「ふつう」。「本屋さんおすすめの一冊」ばっかり。
エッジの効いた書はひとつもありません。
しかし、グッド、グッド、グッド!
何がよいかと言うと、書評♡♡ 
ちゃんと年を重ねてきた女の人が書いている文章が優しく上品。
少し自嘲気味なところも、心地よい。
相手への攻撃の仕方も、チクリ in スーパーマイルド。
「女」だけではなくなった「女性」の強さがにじみ出てて、しっとりとした書です。

本書の良さは、女の人にしかわからないかも・・・。
お手元に一冊いかがですか。

2015年11月8日日曜日

ピーコとサワコ ピーコ/阿川佐和子(文春文庫)

「私は日本の女どもが色の感覚が悪いのは、日本にはいわゆる子どもの色ってあるじゃない?ああいう色を着せて育てるから、色のセンスが悪くなるの。」

この、ピーコの発言に何か感じるところがある方は、是非この本を読むべきである。

反感でもよいし、賛同を覚える方なら尚一層のこと。

べつに、本書では、辛気臭い説教話をしているのではない。

芸能界の裏話。誰某は振る舞いが卑しいとか。ファッションの話。
何が似合って、何が似合わないのか。

笑えるのである。暇つぶしには好適な本なのである。

しかし、それだけではないのだ。
芸能人という<非>常識の人が語る、きわめてまっとうな「大人」の常識が、
この本の中には詰まっているのだ。
 

2015年11月5日木曜日

愛犬家連続殺人 志麻永幸著(角川文庫)


2011年春。園子温監督作品「冷たい熱帯魚」が公開された。
この映画のモチーフになったのはまさに、本書の、愛犬家連続殺人事件である。
これは、この事件に共犯(死体遺棄)として関与した男の、モノローグ。

本書の<魅力>は、慄然とする殺人絵巻も勿論そうなのだが、
主犯格関根元のなんとも、とぼけた、コミカルな、そして人を食ったキャラクターである。
(人を食った、というのは比喩でないことに注意!)

残忍さの中にもクスリ、と笑いがこみあげてしまうキャラクター描写は、おそらくは手練れ
のゴーストライターによる筆致のなせる業なのだろう。共犯者とされる<筆者>の筆でなく。
というのも、本書の記述の水準まで、自分の置かれている状況を客観化ができるくらいなら、
おそらくは事件に巻き込まれるなどということはなかったと思われるのだ。

以下は、そんな関根元の「素敵な」セリフの抜書き。

「人間の死は、生まれた時から決まっていると思っている奴もいるが、違う。それはこの関
根元が決めるんだ。俺が今日死ぬといえば、そいつは今日死ぬ。明日だといえば、明日死ぬ。
間違いなくそうなる。何しろ、俺は神の伝令を受けて動いてるんだ」
「殺しのオリンピックがあれば、俺は金メダル間違いなしだ。殺しのオリンピックは本物の
オリンピックよりもずっと面白いぞ」
「大久保清はただのバカだ。ベレー帽を被りながら何人殺ったか知らねえが、あいつは死体
を全部残している。あんな馬鹿死刑になって当然だ。その点、おれは完全犯罪主義者だから
な」
「商売繁盛 殺しも繁盛」
「関根元の殺人哲学その一、世の中のためにならない奴を殺る。その二、保険金目的では殺
さない。その三、欲張りな奴を殺る。その四はちょっと重要だ。血は流さない。だが、一番
大事なのはその五だ。死体は全部透明にする」
「言ってみりゃあ俺は殺しの鬼平よ」

著者(というか口述者と呼ぶべきだろう)は共犯として実刑判決を受けている。
関根の手口が残忍なあまり、一連の事件に巻き込まれたことを「期待可能性がなかった」と
抗弁をしている。ある種のマインドコントロールにかかってしまい、警察に通報することが
できなかった、というわけだ。しかし、これはまことにもって身勝手な理屈だ(一審判決でも
このような抗弁は採用されていないはずである)。県警の取調官に不貞腐れて悪態をつく態度
のくだりは腹立ちを覚えるくらいだ。
この悪態の背景には担当検事との間で司法取引まがいのことがあった様なのだが・・・・。

復刊が望まれる一冊である。