2015年11月5日木曜日

近代の奈落 宮崎学著(解放出版社)

第一作「突破者」も名著ではあるが、
奥の深さ、対象の重さ、そして汲み取るべき思想の数々、という点で本書は優る。
文字通り宮崎学の代表作となるだろう。
被差別部落を旅し、差別撤廃の第一線で闘ってきた歴戦の勇士を歴訪する。
あるものは既に故人となり、あるものはいまだ健在である。
いわゆる<同和利権>の存在が明るみになるなど、
部落解放運動をめぐる昨今の環境は生易しいものではない。
遅れてきた高度成長の果実を享受する姿勢は是としながらも、
「自前」の運動を失くしてきた運動の未来に危惧の念を寄せる宮崎。
そうした視点は、戦争に勝って差別を無くすというスタンスか、差別を無くして戦争に勝つ、
というスタンスかという究極の二択の延長線上にある。
そしてこの二択は独り差別の問題に留まらず、
あらゆる「異議申し立て」の思想に随伴する問題でもある。
中上健次と坂口安吾をめぐる見解には異論が無いわけではないが、
2002年下半期の名著に位置づけられるべき本である。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。